和歌の世界の月を詠む vol.5 ~月と百人一首~

こんにちは。月よみ師®の静花です。

9月半ばになり、夕暮れの少し涼しい風と虫の音は秋を感じさせます。
秋は空気が澄んできて、月がきれいに見えますね。
つい先日、9月10日は中秋の名月でした(中秋の名月は旧暦の8月15日ですが、9月から10月の間になります)。一年のうちで一番月が美しいと言われる頃です。

今日の月は、おひつじ座の月。月齢15.8日。満月(-)。
おひつじ座の月は、勇気、独立心、ダイナミックさ、新しいこと、自分の気持ちに正直に、というキーワードを心にとめてみてください。
そして月は、木星の近くにあります。
木星は、幸運な星。そして拡大の星。
このタイミングは、何か新しいことを始めるのがいいのではないでしょうか。木星の援護を受けて物事を広げていくことができそうです。
また、天体の配置を見てみると、月は水星と火星と形作っていて対話しています。おひつじ座の月は自己中心的になりがちな部分がありますが、情報やデーターをもとに客観性をもって行動するのが良さそうです。
ただ、月の動きは早いので1日で違った角度に動いてしまいます。思いついたことは、今日のうちにやっておくと天体の恩恵を受けられそうです。

今月も和歌の世界の月を見ていきたいと思います。

雲間の美しい月

秋風にたなびく雲の絶え間より
もれ出づる月の影のさやけさ
――左京大夫顕輔『新古今集』巻四・秋上――

【現代語訳】
秋風に吹かれてたなびいている雲の切れ間から、もれ出てくる月の光の、
なんと明るく澄みきっていることよ。

引用・参考文献 『よくわかる百人一首』 監修:中村菊一郎 発行所:日東書院

秋の夜の美しい月と言えば、中秋の名月。
まさにこの時期の月でしょうか。
うお座満月、もしくはおひつじ座満月でしょう。
うお座は自我が溶けてなくなりただそのものを受け入れる、次の星座のおひつじ座は生まれたての純粋な自分そのもの。
それは、秋の月の美しさそのものであり、一点の曇りもないような状態でしょうか。
雲の間からの光が月の美しさを際立て、その美しさをそのまま感じる心を表しているのかもしれません。

鳴き声のかなたには有明の月

ほととぎす鳴きつる方をながむれば
ただ有明の月ぞ残れる
――後徳大寺左大臣 『千載集』巻三・夏――

【現代語訳】
ほととぎすが鳴いた、その方角を眺めやると、
もはやその姿はなく、ただ有明の月だけが空に残っていたよ。

引用・参考文献 『よくわかる百人一首』 監修:中村菊一郎 発行所:日東書院

ほととぎすは夏の渡り鳥。5月から6月の初夏にかけて日本にやってきます。
その声は特徴的で「テッペンカケタカ」と言っているように聞こえる鳴き声。
明け方に鳴くのを待っていると月が白々昇っている情景。
夏の明け方、少し湿り気を感じるような感覚。霧が立っているような景色を感じます。
有明の月は、満月の少し過ぎた頃かと思われます。
5月、6月のその頃の月と考えるとは、さそり座もしくはいて座の月でしょうか。
さそり座は物事に深く関わっていく星座、いて座は深いところから解き放たれて高みに向かっていく星座。
これから迎える夏を深く感じ入り、かの国から渡り次いでやってきたほととぎすに広い世界を感じているように思います。
姿は見えずともその鳴き声を聞いて、一種の憧れを抱くような思いは今も昔も変わらないのかもしれません。

恋しい思いをつのらせる月

嘆けとて月やは物を思はする
かこち顔なるわが涙かな
――西行法師『千載集』巻一五・恋五――

【現代語訳】
嘆け、といって、月が私に物思いをさせるのであろうか。いや、そうではなく、恋の思いのためなのに、まるで月が物思いをさせているかのように、流れ落ちる私の涙であることよ。

引用・参考文献 『よくわかる百人一首』 監修:中村菊一郎 発行所:日東書院

西行法師は、全国各地を旅しながら月や花の美しさを数多く詠んでいるそうです。そこには美しさを感じる心、恋の切なさをも歌にまじえながら。
旅では多くの人々との出会いと別れがあり、春夏秋冬の四季折々の美しさとの出会い、月の夜もあれば星の輝く夜もあり、夕暮れの三日月もあれば有明の月も眺めたことでしょう。
1日たりとて同じ日のない日々を美しい澄んだ心で見つめ続けたのでしょうか。
空を見上げながらふと思い出すのは、恋しいお方。美しい月を眺めているうちに気づくと涙が流れ落ちていたのかもしれません。そんな情景が目に浮かびます。
月を通して、西行法師の心情を深く知りたくなる歌だと思います。

とある夕暮れ時の空。この日は三日月。
煌々と輝く満月はもちろん美しいですが、このような三日月も大変美しく心に染み入る月でした。
刻々と変化していく夕暮れ時は、とても趣があり美しいものです。

いつの時代であっても私たちの心の琴線に触れる月。
曇りのない澄んだ美しさをたたえていたり、妖しげな気をまとっていたり、心の奥深いところから感情に波紋を広げることもあったり、月は本当に興味深いと感じ更に知りたくなります。

百人一首の歌を通して月を見つめてきましたが、今回でこのシリーズは最後になります。
この文章を読んでいただき、少しでも月に対する興味を持っていただけたら幸いです。

最後までお読みくださいましてありがとうございました。

静花

月よみ師のプロフィール

静花 月よみ師®
岩手県生まれ。幼少期に宇宙の図鑑を読み、月や星に興味を持つ。
小学生の頃に出会った養護教諭に憧れ、上京し看護師になる。

2008年神戸に転居。
2011年東日本大震災が起こり、東北の風景や人々の生活が一転したことに衝撃を受ける。
「自分は何者か、何のために生まれてきたのか」と考え続け、幼少期から興味を持っていた西洋占星術を学び始める。
月が肉体や感情に与える影響の大きさを知り、学びを深めるため2020年月よみ師となる。

現在は看護師を続けながら、美味しくて幸せになれる発酵食を学んでいる。趣味は天体観察と聖地巡礼。
月や星、食を通して心と体も健康になれる暮らしのアドバイザーとして活動中。

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